Istanbul: City of a Hundred Names (英語)
Istanbul: City of a Hundred Names (英語)
2007年 Aperture
オルハン・パムク(著)アレックス・ウェブ(写真)
ノーベル文学賞受賞者オルハン・パムクがエッセーを掲載している、イスタンブールを舞台にしたユニークな写真集。
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オルハン・パムクを読むキーポイント by 岩永星路 & 岩永和子 オルハン・パムクの小説にはいくつかの共通する特徴があると考え、まとめてみたものをご紹介します。ご意見ご感想をお待ちします。 1.東西という基軸 2.こだわりとあきらめ 3.古いイスタンブールと古さびたイスタンブール 4.変わるもの変わらないもの 5.自分が決めると信じている人生と予め決まった人生 1.東西という基軸 (Doğu Batı) 「東」とは 西洋教育を受けながら、歴史的に「西」と対立してきた地に生きる者の目に映る「東」。 著者だけでなく、この地を舞台とする小説の主人公たちもまた、「西」を意識している。西洋の卓越性を認め、惨めな気持ちに苛まされる。西洋で生きた経験はなく、「西」への好奇心が最も重要な関わりである。 「西」とは 「東」の人間が見る、見ることができる「西」。新しさと進歩を意味し、「東」とは異なり「西」の人間は何かに異議を唱え、それを変えることができる。「東」の人間は異議を唱えるだけで新しいことを成し遂げたと勘違いし、自分が進歩的人間であると思う。例えば、『ジェヴデト氏と息子たち』に登場する兵士は商人の兄を軽蔑するが、その実、兄の援助なしには生きられない。 2.こだわりとあきらめ (Takıntı Boşvermişlik) -こだわり 小説の主人公は、自分の周囲のありとあらゆるものを細心の注意を払って観察し、気づく。そして気づいたことは決して忘れず、その発見を別の場所で別のことと結び付けて考える。この観察力は多くの場合、執着の相を呈するまでになる。 -あきらめ 主人公には意識的なあきらめが見られる。「こうなることはわかっていたんだ。流れにはさからえないさ。」という考え方がそこここに表れている。主人公が常に行動しているように見えるのは、世界もしくは自分の未来が変えられると信じているからではなく、こだわりから逃れられず、そのこだわりが自分にとってごく自然な愛すべきものであり、刺激的であることと関連している。 -現代人の救いのなさ (Çağdaş insanın çaresizliği) 「こだわりとあきらめ」という基軸は、現代人の救いのなさを表したテーマである。教育を受けた人間の運命主義ともいえる。テレビや新聞などから世界情勢に通じた都市の教養人は、現行の世界システムを変えることはできないことを知りながら生きているのだ。 3.古いイスタンブールと古さびたイスタンブール (Eski İstanbul Eskimiş İstanbul) 「パムクのイスタンブール」は、大都市イスタンブールのたった3つの地区だけが焦点となっている。それは①歴史地区(旧市街)、②ガラタ地区(新市街)、③ボスフォラス海峡沿いを指す。歴史小説は①と②、自伝的著作は②と③が舞台となっている。その他の場所はあまりにも無視されているため、例えば『赤い髪の女』では、この3つの地区以外の場所は終始主人公が理解しようと努力する外国のように扱われている。 ①は「昔」と「東」を映し、②は新しかったがもはや古さびてしまったイスタンブールの「西」の顔を表す。そして③は「西」に憧れる「東」の人間の住む場所である。パムクはイスタンブールの路地を、そこに立つ家々を、さらにはその中にある家具を描写する。これらはかつて人が作り古くなったものである。草木、花、鳥など、再生を繰り返す自然界が描かれないため、すべてがもともと古いか、または時を経て古さびたものになる。そのため、もの悲しさが感じられる。(hüzün) 4.変わるもの変わらないもの (Değişme Değişmeme) 主人公の生活において多くの詳細が描かれるため、読者は常に新しい事件が起きていると思いながら読み進むが、ある時点で実は何一つ変わっていないことに気づく。これは一人の人間の生涯に関してのみならず、世代についてもそうである。『ジェヴデト氏と息子たち』では、トルコ共和国建国後に生まれた第三世代が、成長してなおオスマン帝国時代を、祖父の代の論点で議論している。また『雪』では、様々な政治や宗教の信条を支持し、それぞれ全く異なった目的意識を持っているかに見える人々が、テレビで大人気のブラジルの連続ドラマが始まるや、同じ画面の前に集まる光景が描かれている。 5.自分が決めると信じている人生と予め決まった人生 (Kendi Hayatın Sandığın Hayat – Sana yazılan (biçilen) Hayat) 自分の周囲を自覚的に観察し、すべてに気づく主人公たちは、小さな決断により自分の人生を自分で切り開いていると感じる。しかしうまくはいかない。結局は違った人生を生きることになる。何が違っているのか。自らが考え、わが人生と思った人生と違う。だがそもそも、自分の置かれた状況や与えられた条件を見れば、こうなるのは必至だった。これは運命のようなものだ。自分たちの人生は元から決まっていたのだ。彼らは必死に努力するが、結局はこの運命を見つけるに至るのである。 主人公は夢見た人生が実現しなくとも、与えられた道を進みながら幸せになれる。何はともあれ、やらなければいけないと考えたことをやっているのだから。
トルコのもう一つの顔 (中公新書) 小島 剛一 トルコ事情に詳しい方に進めたい一冊。日本人には珍しく多国語堪能な作家が、トルコのクルド人やザザ人という民族の人たちに出会い、言葉の研究を進める。東トルコの山奥の村々を訪ねる彼が目の前のするのはトルコの多民族事情だけではなく、クルド人が受けている弾圧など悲惨なことも少なくない。2014年の大統領選でクルド人候補者が出馬し、2015年の総選挙でクルド人地域に強いHDP党がトルコ全土から票を集めて国会で勢力を上げるなど、クルド人問題が解決への前進が感じられる。それでも、この本の中身は過去のものとは言えない。クルド問題の一面に光るをさす大事な本です。
『最後の授業』 Hakkari’de Bir Mevsim 1995年 晶文社 フェリット・エドギュ(著) 木原興平(翻訳) <あらすじ> 舞台はトルコ南東部ハッキャーリ。主人公の青年は、何らかの事情で記憶を失っており、その記憶を少しずつ思い出すように、自らが生きるために必要なことを思い出しながら、それを生徒たちに教えようとする…。 この作品を原作とした映画「ハッカリの季節」は1983年にベルリン映画祭において銀熊賞、国際評論家連盟賞を受賞し一躍有名になり日本でも翌年公開された。 著者についてはこちら 購入はアマゾンから 関連記事 ・『イスタンブール短編集』 ・トルコ狂乱 オスマン帝国崩壊とアタテュルクの戦争
TURKEY: The Land of the Crescent Moon (Exploring Countries of the World)(英語) 2006年 White Star キアラ・リベロ(著) <内容> トルコ各地を著者が周り撮影した写真は、読者を旅へいざなうようだ。表紙はネムルト山の遺跡。ネムルト山は朝日の美しさが格別。旅行者はここで日が昇る瞬間を夜明け前から待つという。 内容: 伝説的都市イスタンブールからトプカプ宮殿の財宝、ピクチャレスクな漁師町からトロイの遺跡など、トルコは私たちにその長く積み重ねられた歴史や、息をのむように美しい地形など、まさに人類の宝を見せてくれる。本書は読者を素晴らしいツアーへといざなう。そこには、ホーマーに愛された「ワイン色の海」や他に類を見ない芸術的建築遺産など、様々なトルコの顔が隠されている。何百ものフルカラーの写真と、そこに添えられた生き生きとしたエッセーは歴史・文化に富んだこの国を垣間見たい読者には必見だ。(本書解説より筆者翻訳) ご購入はアマゾンから 関連記事 ・写真集 カッパドキア 刻まれた時間 ・Istanbul: City of a Hunderd Names
鈴木郁子 プロフィール 鈴木郁子(すずきいくこ)は、トルコ語の通訳、翻訳家、近・現代トルコ文学研究。東京都生まれ。トルコのマルマラ大学大学院修士課程を終了後、日本でトルコ語、トルコ文学に関わる活動を続ける。著書に『アジアの道案内トルコ まちの市場で買いものしよう』(玉川大学出版部、2017)。 略歴 成蹊大学文学部日本文学科を卒業後、出版関係の会社に勤務する。その後、現代トルコ文学に興味を持ち、渡土。トルコのイスタンブルで、トルコ語語学学校を修了。2008年から、マルマラ大学大学院のトルコ学研究所の近・現代トルコ文学室に籍を置き、19世紀末から現代までのトルコ文学を学ぶ。修士論文のテーマは『Ahmet Haşim’in Şiirlerinde Japon Haiku Estetiğinin Tesirleri(アフメット・ハーシムの詩に見える俳句的美意識の影響)』。 帰国後も、近・現代トルコ文学研究、翻訳、通訳、講師など、トルコ語に携わる。児童書を含め、トルコ文学を日本に紹介するため活動している。 2017年、『アジアの道案内トルコ まちの市場で買いものしよう』が玉川大学出版部より刊行された。 ブログ紹介 本が好きなすべての人へ
イスタンブール―思い出とこの町 オルハン・パムク ノーベル文学賞受賞者のオルハン・パムック氏にとってイスタンブールは特別な存在である。生まれも育ちもイスタンブールで、今も現役の「イスタンブール人」だ。観光で2~3日だけ訪れた人にさえ強い印象を残すこの町、裕福な家庭で育ったパムックが語ると一層面白く感じる。 ノーベル受賞前から世界中で有名になったパムックですが、意外とトルコ人の間で絶賛を受けているわけではない。「彼のトルコ語は読みづらい。英訳の方が分かる。」などのクレームまで聞こえる。和訳が出版され、在日トルコ人も喜んでいるところであろう。 イスタンブールを訪れる方は、先にこの本を読んだ方が楽しい旅ができそう。 トルコ語のオリジナルはカバーにオルハン・パムクの子供時代の写真を載せている。 ご購入はアマゾンジャパンから